使えなくなった社員証
月初の朝、顧客企業の総務課にいる白石は、異動した社員のアカウントがまだ有効であることを見つけた。入退室の社員証は返却済みなのに、業務システムの権限だけが残っている。情報管理部門へ連絡すると、異動の手続きが二つの部署に分かれていることが分かった。誰かが怠けたのではなく、連絡の経路がつながっていなかった。
トラッバに相談が届くと、尾高はまず現在の管理者と承認権限を確かめた。アクセスを止めるには顧客側の指示が要る。野江は該当する認証記録が保全されていることを確認し、必要に応じて過去の利用を調べられる範囲を示した。銀利は「権限を切るだけでは次も起きる」と言い、異動の連絡手順も並行して整理するよう助言した。
良助が配られた手続き図を見て「社員証の返却はここで終わるんですね」と尋ねた。図では、物理的な鍵の管理とシステムの権限管理が別々に完結していた。白石はその指摘を電話で聞き、「二つとも同じ『退職・異動処理』だと思っていました」と答えた。
午後、顧客側で権限の停止が承認され、必要な作業が行われた。ログには不審な利用の形跡は確認されなかったが、監視できた期間にも限りがある。報告はその範囲を明示して閉じた。白石は人事異動の際に共有するチェック項目を作り、情報部門と総務の両方へ回した。 白石は次の異動日に備え、両部署の担当者が同じ確認表へ印を付けられるよう手順を整えた。普段は会わない部門同士でも、連絡を受ける日を揃えることはできる。
職場の引き出しには、返却された社員証が封筒に入っている。白石はその札を見て、鍵を受け取るだけでは人の出入りは終わらないと知った。小さな会社の助言は、顧客の社内で新しい手続きへ変わっていた。




