緑色の警告
小田切まりは検知通知を一律に危険と扱うのが嫌いだった。弱い兆候も見逃したくないが、赤い印が増えるほど人は色に慣れてしまう。彼女は毎朝、前夜の担当者が残した判断理由を読み直し、その不確かさを引き継ぐ。派手な成果は少ない。だからといって手を抜ける仕事ではなかった。
研修中の良助が見つめていたのは、緑色の正常表示だった。「緑でも、何か起きていない証拠にはならないんですね」。小田切はうなずいた。沈黙している端末は、安全なのか通信が切れているのか、まず調べなければ分からない。良助は画面の右端にある最終受信時刻を指した。四時間前で止まっている。
「これ、訓練用にわざと止めてるの」。小田切が告げると、良助は安心した顔をした。推理を褒める前に、小田切は自分の説明が足りなかったと気づく。新入りに教えるため、誰もが当然と思っている画面の意味を言葉にする必要があった。
午後、二人は監視対象の一覧に「最終確認時刻」の列を増やす案を日下部へ持ち込んだ。画面の改修はすぐにはできないので、まずは当番用の紙に記す。大がかりな仕組みではない。それでも次の人が無音の端末を見つけやすくなる。飯塚は実施期限を翌週に設定した。 小田切は印刷した一覧の角を折り、当番席の机へ置いた。次に座る人が同じ疑問を抱く前に、見つけられる場所にしておきたかった。
帰り際、小田切は良助に「青とか赤とか、色にだまされないで」と言った。「はい。色は便利なので、余計に気をつけます」。その答えには妙に落ち着いた響きがあった。小田切は机上の小さな植物へ水をやった。警告の色を一つ増やすより、見るべき時刻を一つ増やした日だった。




