五分ずれた時計
久世匠は監視基盤を支える機械の癖を、家族の寝顔よりよく知っている。古い設備と新しいクラウドをつないだ結果、同じ出来事が違う時刻で記録されることがあった。原因はすでに分かっている。しかし緊急の修正が優先され、時刻補正の手順だけが作業予定表に残り続けていた。
その日、訓練用のログを見た良助が「この通知、先に届いてますね」と言った。久世は一瞬、意味を測りかねた。検知の時刻より収集の時刻が五分早い。異常な攻撃ではない。訓練環境に残った旧式の時計設定だった。「よく見つけたな」「順番が逆だったので」。良助は騒がず、久世が直すところを隣で見ていた。
久世は修正内容を記録する際、良助に作業内容を説明した。顧客の実データには権限が必要で、原因が同じに見えても勝手に一括修正してはいけない。良助は「小さい違いを同じものにしないんですね」と聞き返す。久世は少し嬉しくなった。便利な自動化ほど、その区別を失いやすい。
夕方、久世は社長へ時計同期の修正工数を申請した。今までなら自分の深夜作業で済ませていたところだ。「請求できる仕事じゃないけど、事故を防ぐ仕事ではある」。銀利はすぐに承認し、他の予定を一つずらした。相変わらず忙しい。しかし予定表に仕事の名前が載った。 久世は機械の修理より、なぜその作業をしたのか書くことのほうが苦手だった。だが後任が迷わないなら、今日の数分は無駄ではない。
閉店間際の工具店から新しいケーブルが届く。久世は箱を開け、緩んだ留め具を交換した。訓練画面の数字は、ようやく時間どおりに並んだ。見えるものが正しい順番になるだけで、判断する人の疲れは少し減る。彼はそのことを、手順書の最後に書き足した。




