請求書の桁
クラウドサービスの請求書を見た田倉澄子は、最初に桁を数え直した。前月より利用料が増えている。値上げの通知は受け取っていたが、それだけでは説明できない差があった。監視ログを保存する容量が想定以上に増え、古い保存設定が一部の契約に残っていたらしい。
久世は利用量の推移を調べ、監視品質のために必要なデータと、約束を超えて保持しているデータを分けた。削減を急げば調査で必要な記録まで失う可能性がある。銀利は契約ごとの保管義務を確かめてから変更するよう指示した。請求額だけを目標にすると、セキュリティ会社が守るべきものを削ってしまう。
良助は利用量の表を並べていた。「この顧客、端末の数は変わってないのに増えてます」。久世が確かめると、新しい監視項目を追加した際にデータ形式が変わっていた。良助は仕組みを知っていたわけではない。増えた場所を素直に眺めた結果だった。原因が分かると、久世は顧客に相談するための選択肢を作れた。
真壁は料金に関わる話を聞き、「この変更を売値へ載せるのは契約上難しい」と説明した。銀利はすぐ請求しようとはせず、次の契約更新時に価格へ反映させる方針を示した。いま必要なのは、費用がどの仕事から生まれたか分かるようにすることだった。 請求額の増加は、保管する期間だけでなく検索の回数にも関係していた。久世は単純にデータを消す案を取り下げ、無駄な再取得がないか調べ始めた。
夕方、田倉は増加分を資金繰り表へ反映した。予定していた改善が、外から届く一枚の請求書で薄くなる。悔しくないわけではない。それでも数字を隠さず、必要な仕事を削らず、次の手を考える時間は以前より確保できていた。




