止まった承認
月曜日の昼、監視設定の小さな変更が承認待ちになった。担当の銀利は顧客との面談中で、戻るまで作業を進められない。久世は影響の少ない変更だと判断したが、承認者がいなければ規則に反する。早く終わらせたい現場と、安全を守るための手順がぶつかっていた。
飯塚はその場で承認経路を確認した。重大な変更は社長が見るべきだが、すべての細部を社長が承認する必要はない。以前の事故を恐れて、承認権限を銀利一人へ寄せすぎていた。会議から戻った銀利は事情を聞き、「私がいるから遅いなら、仕組みを変えよう」と言った。
ただし権限を広げるだけでは危険だ。日下部が変更の種類を分け、技術責任者が承認できる範囲と二重確認が必要な範囲を記した。野江は実作業者と承認者が同じにならないよう、勤務表と照らし合わせた。良助は表の一角に「承認者が休みの日」と書き足した。見落としていた休日の問題が、そこで初めて明るみに出た。
銀利は午後の終わりに試行期間を決めた。権限を永久に渡すのではなく、一定期間の実績を確かめる。失敗があれば戻す手順も作る。久世は遅れていた変更を翌日に回し、顧客へ理由と新しい予定を伝えた。説明を受けた相手は、遅延よりも手順の透明さを評価してくれた。 試行中に判断を引き継ぐ担当者の休暇も確認された。紙の表だけで完結させず、実際にその日勤務する人へ責任が届くようにする。
帰りのエレベーターで久世は銀利に「社長が全部見るほうが安心だと思ってました」と言った。銀利は「私もそう思っていた」と答えた。二人は短く笑った。役割を分けることは、責任を消すことではない。会社の判断を、誰か一人の椅子から少しずつ離していく仕事だった。




