言葉を選ぶ午後
採用候補者のための業務説明会に備え、真壁千尋は会社の仕事をどう伝えるか悩んでいた。「不正アクセスを防ぐ会社」という一文では簡単だが、実際に行うのは監視、調査、説明、記録の積み重ねだ。防げなかった事故の調査も仕事に含まれる。派手な仕事だと思って来た人を、説明不足で裏切りたくなかった。
尾高は顧客から受けた問い合わせを匿名化し、典型的な一日の流れを示した。野江は休日の呼び出しについて正確な条件を加え、田倉は研修と給与の説明を担当した。社員の負担を隠さず、改善中の点は改善中と書く。募集資料は営業案内とは違う。入ってくる人が自分の暮らしを選ぶための資料だった。
良助は説明会の会場へ椅子を運んだ。机には十数枚の質問票が並んでいる。「この仕事で困るのは何ですか」と自分が聞かれたら、うまく答えられるだろうか。彼は真壁へそう話した。真壁は「困ることがない会社なんて言いたくないね」と返し、自分の説明原稿から『安心して働けます』という曖昧な一行を削った。
午後、説明会の予行演習をした。広瀬が応募者役になり、「未経験でもすぐ夜勤ですか」と聞いた。飯塚は研修が終わっても単独判断を任せない方針を具体的に説明した。銀利は「できるようになるまで待つ時間も、会社が準備する」と付け加えた。予算の厳しさを知る田倉は、その言葉が実行できる日程をもう一度確かめた。
窓際では古い冷房機が低い音を立てていた。立派な会場ではない。けれど説明会へ来る人が見たいのは、新しい机より一緒に働く人の顔かもしれない。真壁は椅子を並べ直し、配る紙の一番上に社名を置いた。




