正解のない問題
演習の翌日、野江蓮は広瀬の作った問題を眺め、最後の設問だけ答えが一つに決まらないことに気づいた。通知には複数の解釈が成り立つ。正解の番号を当てさせれば、思考の途中を見落とす。彼は設問を捨てるのでなく、根拠と不足情報を説明させる形式に改めようと提案した。
良助は新しい用紙を受け取ると、各選択肢の横に小さな問いを書いた。「このログは何分ずれているんですか」「対象の端末は今も使われていますか」。広瀬は思わず笑った。模範解答を用意するより先に、受講者から確かめたい条件が増えていく。野江は良助の答えを評価する前に、何を調べられるかを一つずつ説明した。
久世は演習環境の時計を調整した。わざと時刻のずれを残していたが、訓練としては理由が分かる注記が必要だった。実際の現場では、機器ごとの時刻が一致しないこともある。だからといって、混乱させれば学習になるわけではない。見せたい難しさと余計な不備を分ける。
銀利は完成した設問に目を通し、「答えの速さで評価しないでくれ」と伝えた。顧客へ誤った判断を出すより、確認が必要だと気づくほうが価値の高い場面もある。試験の点数は分かりやすいが、業務で測るべきものはそれだけではなかった。 三人は設問の採点基準も見直した。不足情報を挙げただけで満点にするのではなく、どの情報が判断に関係するのか説明できるかを見る。
夕方、広瀬は修正版を印刷して封筒へ入れた。良助の用紙には模範解答と違う道筋が残っている。全部を「正解」とはできない。それでも、考えた痕跡を消さずに保管しておきたかった。次の新人が来た時に、役に立つかもしれない。




