消えなかった指摘
監査人から届いた報告には、重大な不備はなかったが、改善を求める項目が三つ残っていた。旧手順書の廃止記録、変更承認の保管先、顧客ごとの例外判断の更新期限。日下部は読み終えて、胸の奥にあった重さを少しだけ下ろした。けれど、報告書をしまえば解決する種類の仕事ではない。
銀利は全員を集めて結果を説明した。改善項目を一人に押しつけず、それぞれの業務でどう実行するか確かめる。久世は変更記録の保管先を整理し、尾高は顧客例外の窓口を確認する。真壁は契約時に約束した資料の版と突き合わせた。改善に名前が付くと、ようやく担当も見えてきた。
良助が一覧表の端に小さな印を付けた。「この例外、期限が去年のままです」。見直しを忘れたというより、更新の責任者が異動してから保留になっていたものだった。銀利は失効させる前に顧客へ確認するよう指示した。期限が過ぎた例外を機械的に消しても、現場が困る可能性がある。
昼休み、日下部はビルの裏手の植木を眺めながら弁当を食べた。以前なら監査が終わるまで昼食を後回しにしていた。今は席を離れても、問い合わせを引き受ける人がいる。戻ってきた時、机には「判断待ち」と書いた付箋が一枚だけ置かれていた。 改善計画の期限は、社内の忙しさだけで決めなかった。顧客に確認が必要な項目と自社で完了できる項目を分け、遅延の可能性も最初から伝えた。
夕方、監査への是正計画を提出した。全部が改善済みとは書いていない。銀利は一か月後にもう一度進捗を確かめる日を決めた。外から見つかった指摘が、会社の内側で少しずつ形を変えていく。日下部は予定表のその日だけ、青い線で囲んだ。




