訪問者の靴音
外部監査の担当者がトラッバセキュリティを訪ねた日、事務所の廊下には見慣れない革靴の音が響いた。日下部は会議室へ案内し、監視手順と記録の一覧を渡した。監査人は設備の台数より先に、変更があった時に誰が承認したかを尋ねた。小さな会社では口頭の連絡で済ませたくなる部分だ。
久世は先月行った設定変更の記録を見せた。変更の理由、実施者、結果、元へ戻す方法が揃っている。一方、古い案件では承認の日時が曖昧なものも見つかった。日下部は「昨年度分は整備不足があります」と説明し、取り繕わなかった。監査人は静かにうなずき、改善期限の相談を始めた。
良助は会議室へのお茶を運んだ際、提出する一覧のページ番号が飛んでいることに気づいた。「三枚目がありません」。慌てた広瀬が探すと、該当するのは別の保管区分の証跡だった。資料をそろえれば済む話だが、外から来た人が分からない場所に置かれていること自体が問題だった。
銀利は監査人の質問に自分で答えた。顧客のデータへ誰が触れられるか、操作をどう記録するか、例外が生じた時の判断を誰に戻すか。全てに綺麗な答えがあるわけではない。それでも改善計画を現場の負担と結びつけ、期限を約束できるのは社長の仕事だった。 監査人は作業現場の椅子にも座り、画面へログインせずに手順書だけを読み進めた。現物の操作を求めなくても、判断の道筋が残っているか分かることがある。
帰り際、監査人は「この規模でここまで記録するのは大変でしょう」と言った。銀利は「大変なところを減らせるようにしたい」と答えた。評価は後日届く。日下部は忘れないうちに指摘候補を書き留め、会議室の戸をそっと閉めた。




