勤怠表の余白
田倉澄子は労務顧問から届いたメールを開き、社員の勤務実績を確認した。業務改善で夜間の拘束が減ったとはいえ、月によって残業時間はばらついている。全員が真面目に働いたという説明だけでは、適切に管理できている証拠にはならない。顧問からは、待機と実働をどう区別しているか詳しい記録を求められた。
飯塚は当番表を持って会議室へ入った。「今は夜間の一次受けを分けています。でも、電話を待っている時間がどう扱われるか自信がありません」。田倉は分からないことをそのまま顧問へ確認すると答えた。法律上の取扱いを社内の都合だけで決めるわけにはいかない。銀利は過去の記録も含め、必要なら修正する方針を示した。
良助は総務の棚から古い勤務申請書を取り出すよう頼まれた。紙には、自宅から対応した日が抜けているものもある。「本人が忘れた分はどうなりますか」と尋ねると、田倉は口を結んだ。忘れたから無かったことにはできない。端末の接続記録や本人の申告を照合し、事実を確かめる必要がある。
午後、野江は古い当番日の記憶をたどり、対応した時間を説明した。忙しい日に会社を助けたつもりだったから、今さら問題として扱われるのが少し居心地悪い。「責めるためじゃないよ」と田倉が言うと、彼はほっとした顔をした。正しい給与と休息は、社員の善意とは別に守るべきものだった。
窓際には社員の傘が乾かしてあった。田倉は勤務表の余白へ追加調査の印を付け、すぐ結論を出さないと決めた。会社の赤字は数字で見える。けれど見えない時間の負債も、放っておけば人の暮らしへ積もっていく。




