夜明け前の通知
野江蓮の携帯が鳴ったのは、夜明け前の四時過ぎだった。既存の部品メーカーで、不自然な認証試行が短時間に集中している。監視装置は重大度を上げていたが、それだけで侵入が成立したとは断定できない。当番の小田切は記録を整理し、決められた条件に従って野江へ連絡した。
野江はログの保存状況を確認し、顧客へ知らせる要点をまとめた。発信元の情報、試行の回数、成功を示す証拠が確認できていないこと。小田切は通話の時刻を記録しながら、先方の情報管理者へ状況を伝えた。相手は眠そうな声だったが、質問は明確だった。「生産ラインを止めるべきですか」
「今の証拠では停止を勧める段階ではありません」。野江はそう答えたうえで、対象アカウントの利用状況を顧客側で確認することを提案した。判断の権限は先方にある。知らないことを知らないまま伝える勇気が、夜の仕事には要る。小田切は先方が追加の記録を採るのを待ち、必要な情報を落とさず申し送った。
朝になって広瀬が出勤すると、当番机には手書きの時系列が残っていた。普段なら野江に説明を頼むところだが、記録だけで経緯の大半が読める。飯塚は交代を指示し、夜明けまで働いた二人を帰した。「続きを見る人がいるから、帰っていい」。その言葉は以前より自然に響いた。 夜勤明けの二人が帰った後、飯塚は顧客から届く追加情報の受け口を自分に切り替えた。調査が途中でも、担当を替えることはできる。
良助は朝食のパンを持ったまま、机上の紙を見ていた。「試して失敗したことも、記録なんですね」。広瀬が答える前に、警報の追加情報が届いた。会社の朝は始まったばかりで、先方の工場では夜勤が終わろうとしていた。




