改訂前の窓口
尾高千佳の受話器に、更新先の担当者から相談が入った。「契約書は変わったけれど、現場の掲示が古いままなんです」。工場の情報管理室には、以前の緊急連絡先を印刷した紙が貼られているという。正しい番号へ掛け直すだけで済むようにも見えたが、尾高は掲示を見ているのが担当者だけとは限らないと考えた。
彼女は相手に掲示場所と配布先を聞き、更新案内を作った。電話番号を一つ変えるだけでは、古い案内が残り続ける。社内の共有フォルダ、夜勤者の手帳、外部委託先の受付。相手の会社にも伝える相手がいる。真壁は営業から案内する範囲を確認し、契約と矛盾する言葉がないか目を通した。
良助が作った配布先の一覧には、欄外に小さく「剥がす場所」と書いてあった。「新しい紙を配るだけじゃ、前の紙は消えませんよね」。尾高は思わず笑った。確かにその通りだった。ただし相手先の掲示を自分たちで外すことはできない。顧客側で更新を完了したか確認する項目を追加することにした。
午後、工場から古い掲示を撤去した写真が届いた。尾高は受領した日付を残し、念のため番号へ試験連絡をしてよいか尋ねた。相手の繁忙時間を避けて短く確認すると、呼び出しは予定どおり新しい担当へ届いた。受けた人の声は若く、少し緊張していた。 尾高は先方が使う複合機の設定にも案内が保存されていると知り、修正依頼の行き先を確認した。紙の掲示だけでは、更新の作業が終わらない。
電話を切った尾高は、その人の名前を手書きで控えた。規則の改訂は一枚の紙で終わらない。新しい窓口が生きていると確かめるところまでが仕事だ。廊下では、雨で濡れた傘を良助が広げて乾かしていた。誰かの小さな気遣いが、別の人の仕事を軽くしていた。




