更新を選ぶ会社
尾高千佳は、契約更新の返事を待っていた。値上げをお願いした顧客から連絡が来る予定の日だ。社長と真壁が丁寧に条件を整理しても、最終的に選ぶのは相手である。尾高は朝からメールを何度も確認し、そのたびに新しい案件の対応へ戻った。
昼過ぎ、先方から電話があった。提示額そのままでは難しいが、報告書の形式を見直して業務量を調整する案なら検討できるという。尾高は「ありがとうございます」と答え、内容を復唱した。譲歩だけを喜ばず、残る条件も確かめる。相手の担当者も、社内で説明する時間が必要だった。
銀利は条件を持ち帰って検討した。負担を減らした後でも監視品質が守れるか、飯塚と野江が確かめる。日下部は監査要件との整合性を調べ、田倉は収支へ反映する。良助はその資料を印刷して各担当へ渡した。営業の成功が、社内の他の仕事とつながっていることを、誰もが目で追えるようになっていた。
翌日、銀利は現場から出た修正案を先方へ示した。交渉は続き、結論は翌週へ持ち越された。尾高は肩を落とさなかった。先方が社内の事情を話してくれるのは、関係がまだ開いている証拠だと感じたからだ。 尾高は先方の担当者へ、約束した期限にもう一度連絡する予定を入れた。交渉中の沈黙を放置すれば、相手にも不安が積もる。
夕方、田倉は暫定の収支表へ二つの数字を入れた。更新できた場合と、できなかった場合。どちらも現実として備える。銀利は表を見て「まだ決めつけないでおこう」と言った。会社の未来を一件の返事へ預けないため、ほかの顧客の状況も調べ続けることにした。




