大きすぎる文字
新しい会社案内の表紙には「二十四時間安心」という言葉が大きく印刷されていた。以前の営業資料から引き継がれたものだ。真壁千尋はその紙を見て、すぐに差し替えを提案した。安心という表現が誤りだとは思わない。しかし顧客が有人対応まで常時保証されると受け取れば、また同じ誤解が生まれる。
尾高も賛成した。彼女は既存顧客へ説明して回った経験から、何を期待できるかが明確なことの大切さを知っている。銀利は二人の話を聞き、表紙を「監視の継続性と対応の明確さ」に改めるよう指示した。言葉は地味になる。営業の目を引く力は少し弱まるかもしれない。
良助は新旧の案内を並べ、「新しいほうは、できることが分かります」と感想を言った。真壁は「それだけで選んでもらえるとは限らない」と説明した。顧客は信頼だけでなく価格や実績、対応範囲も比べる。青年はうなずき、冊子の表記ゆれを探す作業へ戻った。
午後、真壁は候補顧客へ改訂した案内を送った。先方からは「夜間の連絡条件が明確ですね」と返信が届いた。すぐ契約にはつながらないが、説明の負担は減るかもしれない。営業が届けたいのは、誤解で生まれる期待ではなく、実際に提供できる価値だった。 真壁は印刷所へ修正箇所を伝える前に、尾高と声に出して新しい文章を読んだ。難しい表現が残っていれば、顧客に届く前に直したかった。
夕方、銀利は古いパンフレットを資料棚へ保管した。過去の約束を調べる必要があるからだ。新しい案内を見て、久世が「技術者にも分かりやすい」と言った。真壁は珍しく、表紙だけで仕事を褒められた気がした。会社の顔になる言葉が、少しだけ実態へ近づいた。




