教える時間の値段
新人をもう一人迎えるとしたら、誰が教えるのか。飯塚航はその問いを受け、予定表を開いた。増員は必要だった。けれど経験の浅い人を現場へ放り込めば、教える側の負担が増えてしまう。研修の時間を見積もることも、採用計画の一部だと銀利は言った。
広瀬悠真は「僕も少しなら教えられます」と手を挙げた。最初は飯塚も心配したが、先日良助へ説明した資料が役に立つと分かった。小田切は初期研修の確認を引き受け、野江は技術的な質問に答える時間を週に一度確保する。誰か一人を教育係にするのではなく、それぞれが得意な部分を分担する案になった。
良助は研修資料の整理を手伝った。「先生が違っても、同じ説明になるようにするんですか」と尋ねると、日下部は「同じにしなくていい。ただ大事な条件は同じにする」と答えた。人の教え方まで統一すると、かえって理解が難しくなる。青年は資料の順番を変え、確認すべき項目だけに印を付けた。
銀利は全員の負担を見て、採用時期を当初の予定より遅らせる可能性を伝えた。田倉は固定費の試算を添え、真壁は新規契約の状況を説明した。増員が会社を救うのか、増員できる会社を先に作るのか。答えはまだ出ないが、判断材料は揃いつつある。 飯塚は教育時間を原価表にも記載した。新人を育てる日には、生産的な作業が一時的に減る。その時間を隠せば、また誰かが夜に補うことになる。
終業時、広瀬は自分の研修ノートを開いた。入社当時は分からない用語ばかり並んでいる。今ではいくつかを説明できる。彼は明日の作業欄に「良助へ確認問題を渡す」と書いた。人を教えるための準備が、自分の仕事をもう一度確かめる時間にもなっていた。




