五十枚目の記録
月次の仕事量を測り始めてから、田倉澄子のファイルには五十枚目の記録用紙が入った。枚数に特別な意味があるわけではない。ただ、紙が増えたぶんだけ、それまで隠れていた作業の輪郭も見えてきた。直接監視に使う時間より、確認と報告の往復に予想以上の手数が掛かっていた。
銀利はその表を見て、いくつかの顧客に対する作業を減らす余地があると判断した。しかし同時に、減らしてはいけない確認も見つけた。顧客ごとの監査要件が違うため、同じ形式へ統一するだけでは危険だった。社長は「全部を一つにする案」は採用せず、共通化できる部分だけを洗い出すよう指示した。
会議には各担当が資料を持ち寄った。久世は設備管理の負担を、尾高は問い合わせの変化を、真壁は契約交渉の手応えを話した。飯塚は当番表の修正で残業が一部減ったと報告する。まだ数字は不安定だ。誰も成功宣言はしない。良助は議事録を整え、決まったことと未決定のことを分けて書いた。
会議が終わる頃、銀利は良助へ「資料の順番、分かりやすいな」と声をかけた。青年は「教えてもらった通りに並べただけです」と答えた。銀利はそれ以上褒めず、次の確認作業を頼んだ。見えている仕事はまだ入口にすぎない。新人のためにも、自分たちのためにも、急がず教える必要がある。 日下部は数字の定義を一つずつ確認した。似た項目が別々の表にあるため、単純に足してしまえば改善の大きさを見誤るおそれがあった。
夕方、田倉は新しいファイルを棚へ入れた。資金繰りは厳しいが、前月より何が変わったかを説明できるようになっていた。会社を支える数字に、ようやく続きができた。彼女は閉じた背表紙へ、静かに翌月の年月を書き込んだ。




