戻せる仕組み
通知分類の失敗を受けて、日下部透は手順書の改訂を任された。新しい仕組みを採用する条件だけではなく、停止する条件も必要だという。野江が試験内容を説明し、小田切が実際の見落としを報告する。久世は元の設定へ戻す作業がどれほどかかるか示した。それぞれ違う視点が揃うと、問題の形がはっきりした。
銀利は会議の冒頭で「急いで元に戻せたのはよかった」と言った。失敗そのものを褒めているのではない。被害を拡大させない判断ができたことを確認している。野江はその違いを理解し、ようやく顔を上げた。社長はそのまま、顧客へ必要な報告内容を整理した。
日下部は手順書に三つの確認欄を設けた。適用範囲、効果の測り方、戻す条件。すべて埋まらなければ本番へ反映しない。良助が文書の体裁を整える際、「戻すことも始める前に考えるんですね」と言った。日下部は「最初から失敗するつもりじゃなくても、戻る道は必要なんだ」と答えた。
午後、久世は訓練環境で元の設定へ復帰する試験をした。三人が立ち会い、作業時間と確認方法を記録する。うまくいったからといってそのまま本番に使うわけではない。必要な承認を得るまで、試験結果は試験結果のままだ。 新しい様式を印刷すると、日下部は試験用の札を付けた。本番の規定とはまだ違う。使う前に現場の意見を聞くため、一週間だけ置くことにした。
帰り際、野江は日下部の机に菓子を置いた。「厄介な仕事増やして悪かった」。日下部は「減らすために作るんだよ」と笑った。手順書は厚くなったが、判断に迷う人の負担を減らすための厚さだった。外では静かな雨が降り始めていた。




