画面の向こうの夜
運用担当の野江蓮は、監視画面に赤い警告が点灯するたび肩を固くした。正しい警告も誤検知も、最初の一秒は同じ色をしている。夜間当番の眠気が残った朝、彼は新人の端末に訓練用データを表示した。「実物の顧客環境はまだ触らない。今日は、この通知が何を意味するかだけ考えて」。
良助は数分、時刻の列を追っていた。「一つの端末から三回ですか」「そう。でも感染の証拠とは限らない」。野江は問い返される覚悟で説明を始めた。すると良助は「同じ試験を三回しただけかもしれませんね」と答えた。単純な可能性だった。野江はそれを否定せず、痕跡を探す順番を教えた。
昼過ぎ、別の新人研修を担当する日下部透が、手順書の古さに気づいた。記載された画面の位置が現行版と違う。良助は間違った位置を覚えたあと、日下部の訂正もそのまま受け入れた。「覚え直すの、嫌じゃないのか」。日下部が聞くと、「正しいほうが助かりますから」と首をかしげる。
夜勤明けの野江が帰ろうとした時、良助は貸与端末を返しに来た。端末には付箋一枚、「分からないままにしてよい警告はない。ただし、全部を事故と決めない」。野江が教えた言葉を、少しだけ短く書いてある。研修の成果としては地味だった。 野江は研修端末の電源を落とす前に、練習で使った情報が本番の環境へ混ざっていないことを確かめた。教える側が守るべき境目でもある。
駅に向かう道で、野江の携帯に当番交代の連絡が入った。飯塚が「今日はもう見なくていい」と書いている。野江は返信に迷ったが、結局「了解」とだけ送った。事務所の灯りはまだついている。自分一人が抱えなくても、監視は続く。そう信じる練習も、技術者の仕事なのだろうと思った。




