小さな朝礼
銀利樹一は朝礼の長さを気にしていた。忙しい職場ほど情報共有が必要になるが、共有のために働く時間を使い切っては本末転倒だ。これまでは全員が昨日の出来事を順に報告し、緊急の件があればその場で議論になった。十分の予定が四十分になることも珍しくなかった。
飯塚が提案した新しい方式は、急ぎの連絡だけを全員で共有し、詳細は担当者同士で話すというものだった。田倉は支払期限、尾高は顧客の予定、久世は設備点検を一言ずつ伝える。銀利は質問の時間を設け、議論が必要な項目を別の会議へ移した。結果として朝礼は十二分で終わった。
良助はホワイトボードを消しながら「お話しできなかったこと、ありませんか」と尋ねた。飯塚は少し考え、「ある。でも後で話す場所を作った」と答える。青年は納得したようにうなずく。省くことと無視することは違う。短さそのものが目的になれば、また別の不便を作ってしまう。
午後になって、一つの問題が出た。真壁が重要な顧客の訪問変更を朝礼で伝え忘れていたのだ。尾高が気づいて連絡し、訪問先へ迷惑は掛からなかった。銀利は「朝礼を短くしたから」と決めつけず、予定変更を共有カレンダーへ反映する責任を確認した。 朝礼から外した細かな技術相談は、飯塚が午後の短い時間にまとめた。相談の場所を変えただけで、相談を受ける責任は消えていない。
帰り際、飯塚は翌朝の議題を五つだけ書いた。うち一つは「昨日の訪問変更」。同じ形式をただ続けるのではなく、使いながら直すつもりだった。銀利は新しい朝礼を承認し、終業後の追加会議を取りやめた。今日は全員が、少しだけ早く自分の仕事へ戻れた。




