教える側の手帳
広瀬悠真は初めて、良助へ監視手順を説明する役目を与えられた。入社した時から先輩に教わる側だったので、少しだけ誇らしい。ところが最初の三分で話す順番を間違えた。用語の説明より先に操作を進め、青年の画面に見慣れない選択肢を開いてしまう。
「ごめん、戻すね」と広瀬が言うと、良助は「どこで戻せるかも知りたいです」と笑った。二人は手順を最初からやり直した。広瀬は説明するために、なぜその順番が必要なのか考える。いつも先輩の動きを真似していた場所に、危険を避ける理由があったことに気づいた。
午後、小田切まりが二人の研修を見に来た。広瀬は自分で作ったメモを見せ、確認の視点が一つ抜けていると指摘される。以前なら落ち込んだかもしれない。今日は「足しておきます」と返事ができた。良助も「そこ、僕も分かっていませんでした」と手を挙げた。
研修が終わる頃、広瀬は手帳の余白に「説明できないことは覚えたことにならない」と書いた。会社の標語にするつもりはない。自分に向けた注意だ。良助は手帳をのぞき込まず、片づけを手伝う。「今日はありがとうございました」。年下でも年上でもない、同じ職場の新人同士のような声だった。 良助が席へ戻った後、広瀬は説明に使った図を描き直した。どの矢印から読めばいいか、自分なら迷う。教わる人の目線を初めて想像した。
夕方、野江から別の検知の説明を頼まれた広瀬は、初めて「一度確認してから答えます」と言えた。知らないことを隠さないために、知っていることを増やしたい。翌週の研修表には、広瀬自身が担当する項目がもう一つ増えた。誰かに教える時間が、彼の成長を支え始めていた。




