見えない手数
銀利の机へ、監視業務の原価をまとめた暫定表が届いた。田倉と飯塚が協力して作ったもので、顧客ごとの人員工数を大まかに割り振ってある。表には空欄が多い。電話の折り返し、報告書の手直し、社内での確認作業は記録が散らばり、正確な時間を出せなかった。
銀利は空欄を勝手に埋めなかった。「分からない数字は分からないまま出す」。彼の判断に田倉は安心した。経営のために必要だからと推定を実績に変えてしまえば、将来の値上げ交渉で根拠を失う。必要なのは一度だけ美しく見える表ではなく、次月も同じ方法で調べられる資料だった。
良助は資料の整形を頼まれた。開いた表を見て「実際に顧客に使った時間と、社内で戻した時間が混ざるんですね」と言った。飯塚は作業の区別が曖昧なことを認め、分類を増やし過ぎれば記録そのものが続かないと説明した。良助は「じゃあ最初は三つくらいですか」と尋ねるだけだった。
会議では、直接対応、付随作業、原因未確定という三つの区分で試すことになった。久世は設備維持の時間を別扱いにすべきだと主張し、銀利はその指摘を受けて試行条件へ注記した。最初の分類が完全でないことは、全員分かっている。現場が記録できることのほうが重要だった。 田倉は試算に使った前提をファイルの先頭へ記した。後から数字が変わった時、誰が間違えたかではなく、何が変わったかを確認するためだった。
金曜の終業前、飯塚は初日の記録を確認した。想像以上に「付随作業」が多い。だからといって削れる仕事ばかりではない。顧客の安心を守る確認も含まれる。銀利は表を閉じず、来週も同じ方法で数字を集めるよう伝えた。赤字の理由が一夜で消えることはないが、見えない手数には少しずつ名前が付いていた。




