隣町の技術者
野江蓮は同業の勉強会に顔を出した。場所は隣町の小さな公共会議室で、参加者は十二人。大きな企業の技術者も、個人で仕事を請け負う者もいる。監視ルールの更新に苦労しているのはトラッバだけではないと知ると、少し気が楽になる。同時に、自社の狭い知識だけで判断していた部分も見えてきた。
会場では、ある会社が誤検知を減らす工夫を共有した。実際の攻撃に転用される情報は伏せ、検証に使った仮データだけが示される。野江は質問し、導入の前提条件を細かく聞いた。便利そうな仕組みほど、運用できる人員や時間が必要だ。他社の成功をそのまま借りることはできない。
帰社した野江は、社長に勉強会の資料を見せた。銀利は資料の技術面をすぐ理解し、さらに「うちで試すなら、監査の説明責任はどう残す」と尋ねた。野江にはそこまで考えが及んでいなかった。社長は批判しない。必要な条件を付け加え、検証環境だけで試す許可を出した。
良助は会場で配られた一般公開の冊子を読んだ。「同じことに困っている人、ほかにもいるんですね」と言った。野江は「仕事って大体そうだよ」と答えた。青年は自分だけで答えを出そうとしない。知らない人から学ぶことを、特別な行為と思っていないようだった。 帰りの電車では、勉強会で会った技術者の名前を名刺で確かめた。会社の外にも専門家がいるという事実が、孤独な夜勤の記憶を少し薄めた。
夜、勉強会の主催者から次回の案内が届いた。野江は予定表に記入し、飯塚へ参加希望を伝えた。以前なら勤務が詰まっているからと諦めていた。次も行ける保証はない。それでも社外の人の知恵が、自分たちの仕事を少し軽くしてくれるかもしれない。小さな窓が一つ開いた。




