午前の空白
金曜日の午前、飯塚航は予定表に白い二十分を見つけた。誰も会議を入れていない。いつもなら埋めるところだが、今日は触れずにおいた。夜間当番の見直しと手順書の修正で、今週は仕事の名前が増えていた。実際の負担が増えたのではない。隠れていた仕事が、予定表へ戻ってきただけだった。
白い時間を使い、飯塚は全員の当番記録を読み直した。自分のところへ集中する問い合わせに、同じ質問が繰り返されている。小田切にも日下部にも答えられる内容だが、責任者の確認印が必要とされていた。銀利と話し合い、軽微な変更は一定の条件下で現場判断を許すことにした。
良助は印鑑の欄が変わったことに気づき、「誰に聞けばいいか、分かりやすくなりました」と言った。飯塚は少し苦笑した。「今までは俺に聞けば何でも済んだからな」。青年はその言葉にうなずくが、何が悪かったとも言わない。飯塚は自分自身、便利な窓口でいることを少し誇りにしていたと認めざるを得なかった。
午後、広瀬が作業上の疑問を小田切へ持っていった。判断条件に当てはまらず、結局飯塚へ戻ってきた。それでも飯塚は失望しなかった。最初から全部を分散できるわけではない。戻ってきた理由が分かれば、次に手順を足せる。 飯塚は空いた欄を別の人の仕事で埋めないようにした。予定が見えてくると、つい足りない場所に自分を入れたくなる癖があった。
夕方の空白は、急な顧客連絡で消えた。飯塚は電話を取り、必要な人へ確認して回答した。以前と同じように働いた一日だったが、隣の机で広瀬と小田切が自分たちで話し合っている。その声を聞きながら、全ての会話に参加しなくても会社は動くのだと知った。




