約束の幅
尾高千佳のもとへ、顧客から「二十四時間対応と書いてあるのに、夜中に相談できないのか」という質問が届いた。昨夜の警告は重大なものではなかった。契約の範囲では翌営業日の回答でよい。しかし顧客が不安になったのも事実だ。尾高は契約条項だけを送って突き放すことができなかった。
銀利は資料を広げ、監視と対応の違いを説明する文章を自ら書いた。検知は止めない。重大度の高い問題は夜間でも人が判断する。それ以外の問い合わせは、翌営業日に確実に扱う。顧客は自分たちを守るため、何を期待してよいのか知る必要がある。「できることを大きく言わない」と銀利は念を押した。
文章を読んだ真壁は、営業上の不利を心配した。同業他社が「年中無休」を前面に出しているからだ。良助はその会話を聞きながら、小さく「困った時に何時なら返事が来るか、知っている方が安心かもしれませんね」と言った。真壁はすぐには同意しなかった。顧客の不安は、相手ごとに違う。
夕方、尾高はまず一社だけに説明文を送り、電話で反応を確かめた。先方の担当者は「初めからそう言ってほしかった」と笑った。そして、重大時の連絡先だけを再確認した。クレームになると構えていた尾高は、受話器を置いて深く息を吐いた。 改訂前の案内は捨てずに保存した。顧客がどの説明を受けて契約したか、後から検証できなければならない。
彼女は全顧客へ一斉送信する案を引っ込めた。契約の違いを調べてから、一社ずつ必要な説明をする。焦って便利な言葉を広めれば、また別の誤解を生む。社内のボードには、新しく「期待のすり合わせ」という欄ができた。営業成績に載らない仕事が、会社の信用を支え始めていた。




