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みんな真面目なのに、会社は赤字です。――十一人目の新人から始まる会社再建  作者: 竜太郎


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三本の電話

午前十時、顧客からの電話が三本ほぼ同時に鳴った。尾高千佳は左手で受話器を押さえ、右手で別の会社の障害状況を更新する。営業の真壁千尋は外出中、運用責任者の飯塚航は画面の向こうで深刻な通知を追っていた。誰も電話を無視したくない。その善意が、いつも机の上に未処理のメモを増やした。

新人の良助に任されていたのは、着信の記録だけだった。「内容を判断しなくていい。会社名、折り返し先、時間を残して」。尾高は言った。良助はうなずき、三枚のメモに書き分けたあと、それぞれを電話の脇ではなく、担当者の席へ届けた。最初の一本は運用への問い合わせ、二本目は契約更新、三本目は請求書の宛名変更だった。

尾高が少し驚いたのは、昼過ぎのことだった。手帳の余白に、良助が聞き取った呼称が並んでいる。「『すぐ見てほしい』という言い方でも、全部同じ急ぎ方ではないんですね」。相手の切迫感を勝手に数値化せず、用件だけを区別したらしい。尾高は、毎日口癖のように使っていた「至急」を考え直した。

夕方、一本目の顧客から礼のメールが届いた。障害ではなく、通知メールの送り先を変えたいだけだった。飯塚は作業に取り掛かる前に確認できたため、深刻な検知の調査を中断せずに済んだ。効果は十五分程度だろう。それでも十五分は、いまの職場で簡単には拾えない時間だった。

「電話、怖くなかった?」と尾高が聞くと、良助は「相手の名前を間違えないほうが緊張します」と笑った。尾高は自分の机に積んだ付箋を見つめた。電話が悪いのではない。一本ずつ受け取る仕組みがないだけかもしれない。退勤前、彼女は着信記録の欄を一つ増やした。「回答期限」。たった四文字が、翌朝の自分を少し助けそうだった。

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