見えない交代
野江は夜間監視の当番を終えて帰る途中、駅の改札でふと足を止めた。前夜の最後に調べていた警告を、次の担当者へ渡したか確かめたくなったのだ。記録は残した。だが口頭では説明しなかった。携帯を開きかけ、今日は自分が休む日だと思い直した。
事務所では、小田切がその引継ぎを読んでいた。警告は顧客の定期作業による可能性が高いが、確認は終わっていない。小田切は資料を見て、顧客への照会が必要な時刻を当番表に書き込んだ。野江を呼び戻す理由はなかった。飯塚は引継ぎの不足を見つければ後で研修に生かすつもりだったが、その場では業務を進めた。
良助は備品棚で予備の充電器を探していた。小田切が「野江さんに電話したほうが早いかな」と漏らすと、「休みの日に電話が来たら、今度は小田切さんも休めなくなりそうですね」と答えた。問いを自分へ返すような言い方だった。小田切は作業履歴をもう一度読み、答えを探した。
昼過ぎ、顧客の承認済み定期作業であることが確認された。判断には時間が掛かったが、途中の記録が役に立った。飯塚は欠けていた一項目を手順書に追加し、次回は誰が引き継いでも調べられるようにした。
小田切は確認が終わった時刻を共有欄へ残し、次回同じ警告が出た時に参照する場所も示した。野江の書き方には少し説明不足があったが、調査の入口は十分残されていた。翌日の打ち合わせでは、その不足を本人が責められる形にしないよう、手順書の改善点として扱うことになった。
夜、自宅の食卓で野江は携帯を裏返した。何も連絡がないのが不安だった時間は、少しずつ短くなっている。翌朝出社すれば、改善された記録を読むことになる。自分がいない間に進んだ仕事を、いつか自然に喜べるようになりたかった。




