役職の欄
田倉は社員名簿の更新中、良助の職位欄が空白になっていることに気づいた。正式には一般社員と記載するべきだ。人が増え、部署の整理も進み始めている。会社の組織図は少しずつ見やすくなったが、管理者を増やす必要があるかは別の判断だった。
銀利は飯塚や日下部の責任範囲を確認し、権限と役割を明確にするよう指示した。誰かを褒めるための肩書ではなく、顧客や社員が困ったとき判断者を見つけるための仕組みだ。良助には必要な担当業務があり、役職を用意する理由はなかった。
田倉は社員名簿を更新したあと、入社当初の資料を振り返った。良助の履歴書に書かれた一年の空白を、面接時はどう説明するか気にしていた。しかし今は、その一年を理由に彼の仕事を評価する人はいない。社長も彼の成果を本人だけの功績にしようとはしなかった。評価と権限は別であり、役職がなくても昇給や働き方を考える余地はある。田倉は次の人事面談へ必要な資料を、丁寧に揃えた。
田倉は名簿の更新を終えると、管理者を示す組織図も見直した。良助のように役職を持たない社員が、仕事を教える場面はこれからもある。だからといって正式な承認権限まで与えるわけではない。
銀利は良助の職位欄を見て、評価の方法も別に考えておかなければと思った。肩書を持たなくても努力を正しく扱う方法はある。人事を後回しにしたくなかった。
名簿を更新した夕方、梶原が手順書の場所を聞きに来た。良助は棚まで案内し、分かる範囲を教えた。役職欄は「一般社員」のまま。田倉は書類を閉じた。仕事をしている人の価値は、名簿の一行だけでは測れない。




