消える前の合図
保存期間を迎える記録について、顧客から確認の依頼が入った。通常なら定められた手順で削除するが、関連する調査が続いているものは保全が必要になる場合がある。日下部は顧客の責任者へ、必要な記録と期限を確かめる連絡を送った。
一社から「念のため全部残して」と返答が来た。野江はそのまま受けず、目的と対象範囲を聞いた。保全が必要なものは大切だが、根拠なく無期限に保存すれば別のリスクが生まれる。銀利も同じ判断を支持した。
顧客の担当者は削除前の案内を読んで、保全対象の選定を自社の法務担当へ確認した。トラッバが勝手に期間を延長しないと分かったことで、むしろ相談しやすくなったという。野江は一度きりの特例を、すべての記録へ広げないよう手順書へ注記を加えた。良助は確認票の保存先を尋ね、尾高が管理者だけ見られる場所を案内した。誰がいつ決めたかを残すことと、誰もが自由に読めることは違う。
日下部は削除予定の連絡を送る前に、顧客側の窓口が変わっていないか確かめた。誤った宛先へ重要な判断を求めても返事は来ない。尾高は現在の担当者を確認し、回答期限を明記した。
顧客の担当者は回答へ上司の確認印を付けた。野江はそれを受け取って処理日を決めた。誰が責任を持ったか見えるため、次に同じ質問が出ても経緯を辿れる。
数日後、顧客から対象を限定した回答が届いた。保全する記録と通常どおり期限を迎える記録が分けられ、処理履歴も残った。日下部は完了報告を送り、顧客側でも承認記録が保存された。何かを残す決定も、何かを消す決定も、互いの責任があって初めて成り立つ。




