赤い数字の理由
翌週、田倉の集計した月次収支はわずかに赤字となった。銀利は数字を見てうなずき、原因を一項目ずつ確かめた。値引きの拡大でも失注の連鎖でもない。人員の増加と必要な設備費が主な理由だった。もちろん、それだけで安心してよいわけでもない。
銀利は社員の前で結果を説明した。「一か月前の改善が嘘だったわけではありません。ただ、まだ利益を安定して出せる段階ではない」。真壁は新規契約の進行状況を報告し、久世は来月の設備費を示した。誰かに責任を押し付ける空気はなかった。
社員説明の後、梶原は休憩室で一人になった。自分の入社で利益が減ったことを知ると、どうしても申し訳なく思う。広瀬は湯を沸かしながら「私も最初は教えてもらうだけだったよ」と話した。誰でも最初から一人前ではない。会社はその時間を引き受けると決めて採用するのだ。梶原は少しずつ気持ちを落ち着け、午後の演習へ戻った。赤字の数字は消えないが、誰かの存在を責める言葉にはしなくてよい。
梶原は自分の入社が費用として数えられていることを初めて意識した。だからといって研修を急いで終えるわけにはいかない。飯塚は仕事を任せる条件を示し、まだ知らないことを隠さず申告してほしいと伝えた。
真壁は赤字の説明を聞き、来月の商談で無理な値引きをしないと決めた。採用費の負担を新しい赤字案件で埋めれば、同じ苦しさが長く残る。営業の判断にも責任があった。
夕方、田倉は収支表の前月と今月を並べて保存した。増員による負担がいつまで続くかは予測が必要だが、確約はできない。外では秋の風が吹き始めていた。初めての小さな黒字から、次の赤字へ。会社は一歩進んだら二歩戻ることもある。それでも次の日の仕事は続く。




