夜の契約書
銀利は深夜対応を含む契約書を、顧客企業ごとに開いていた。「二十四時間監視」という文字は、技術的な通知の取得を意味する場合と、人間による即時確認を期待されている場合がある。言葉を曖昧にしたまま契約を増やせば、社員は夜中に起き続けなければならない。彼自身が何度もそうしてきた。
契約の一つには、重大度の高い警告だけを夜間通報する条件が明記されていた。別の契約では、報告までの時間が細かく定められている。銀利はどちらも守る方法を知っている。ただ、少人数の当番表では余裕がほとんどない。顧客を守ることと社員を守ることが対立しない設計が必要だった。
翌朝、飯塚が作った当番案を見て銀利は眉を寄せた。飯塚自身が毎晩の予備当番に入っている。「それは予備じゃなくて常勤だ」。飯塚は反論しなかった。代わりがいないことを、二人とも知っていた。銀利は顧客の契約条件を調べ直し、夜間一次受けを外部へ委託する選択肢を検討することにした。
良助は会議資料を配りながら「夜に全部同じ人が見るんですか」と聞いた。飯塚が今はそうなりがちだと答えると、「昼間に判断しておけることも、あるんでしょうか」と重ねた。銀利は良い問いだと思った。夜に残すべき判断だけを夜に持ち込めば、緊急時に集中できる。 電話の向こうの委託先は、深夜の一次受けだけなら対応できると言った。ただし申し送りの範囲は契約で定める必要がある。話はまだ始まったばかりだった。
夕方、銀利は委託先候補へ連絡を入れた。すぐに費用が減るとは限らない。契約内容と責任範囲のすり合わせも必要だ。それでも会社が何を引き受け、どこまで他者へ頼れるかを考えることは、単なる節約ではなかった。社員を眠らせるための設計だった。




