責めない会議
毎週水曜日の午後、トラッバセキュリティには短い振り返り会議がある。かつては「なぜミスが起きたか」を確認する場だったが、忙しさのためいつしか報告者が謝るだけの時間になっていた。銀利はその変化に気づいていた。けれど顧客対応が優先され、改善の手を入れられていなかった。
この日の議題は、前日の報告書の順序間違いだった。広瀬が頭を下げると、日下部が先に「参照した資料が古かった」と説明した。飯塚は、端末の作業画面に最新版へのリンクがないことを補足する。誰か一人の注意不足にしてしまえば、次に起きる同じ間違いを止められない。
良助は傍聴席からほとんど話さなかった。銀利が「気になった点は?」と尋ねると、少し考えてから「間違えた場所を見つけるのが早かったです」と答えた。誰かの能力を評価したいのではなく、実際に観察したことだった。広瀬は胸の奥が少し温かくなるのを感じた。
会議の終わりに、銀利は新しい運用を決めた。問題が見つかった時は「発生したこと」「影響」「再発を防ぐ手順」を分けて残す。犯人探しはしない。ただし責任まで曖昧にもしない。顧客へ誤った情報が出た場合は、会社として説明する。社員はそのための証拠を丁寧に残す。 銀利は新しい様式を社内の規則として通知する前に、全員が読める場所へ置いた。現場から不便が見つかれば、翌週の会議で直すつもりだった。
会議室を出た田倉は、掲示板へ新しい様式を貼った。余白に「相談してよい」と自分で付け加える。紙一枚で文化は変わらない。それでも広瀬が帰り際、迷っていた別の疑問を日下部へ質問しているのを見た。質問できる時間が戻ってきたことを、田倉は小さな前進として受け取った。




