間違った順序
広瀬悠真は、月次報告のために必要な表を作り終えたと思っていた。数字は合っている。日付も揃っている。ところが日下部透が検査すると、顧客に渡す順番だけが逆だった。去年の書式と今年の書式を混同していたのだ。広瀬は急いで直そうとしたが、日下部はまず原本を残すよう指示した。
「どこで間違えたか分からないと、またやるから」。日下部の言い方は穏やかだった。広瀬は自分の操作履歴を追い、古い手順書から作業を始めたことに気づいた。新人研修の資料が複数の場所にあり、検索で先に出るのは最新版とは限らない。謝罪すると日下部は「見つけてくれて助かった」と答えた。
そこへ良助が書類を届けに来た。「すみません、僕もその資料を見ました」と言ったので、広瀬は肩を落とした。自分だけの間違いではないらしい。良助は一覧の下に小さく書かれた更新日を指し、「こちらが古いって、気づきませんでした」と付け加えた。できる新人だと思っていた相手も、知らないことは知らない。
日下部は銀利へ報告し、参照先を一つにする作業を翌週の予定に入れた。銀利は手順書を消す前に旧版を保管するよう指示した。過去の判断を消してしまうと、顧客から古い書式について問い合わせが来た時に説明できなくなる。便利さと証拠を両立する判断だった。 画面の外では、別の担当者が顧客と通話していた。広瀬はそちらへ気を取られかけたが、目の前の検査を一つずつ終わらせることを選んだ。
夕方、広瀬は報告書を正しい順序で提出した。顧客には影響していない。日下部は修正済みの印を押し、良助に確認用の画面を見せた。失敗を隠さなくていい会社なら、もう少し長く働けそうだ。広瀬はそんなことを思いながら、昨日より早く端末を閉じた。




