名前のない端末
久世匠にとって、番号だけで並ぶ端末は仕事の道具だった。顧客が機械を入れ替えても番号は残る。ある製造会社から「古い機械の通知がまだ届く」という連絡が来た時も、久世は慣れた手つきで履歴を調べ始めた。けれど機械は既に撤去されているはずなのに、最近の通信記録がある。
尾高が確認すると、先方は撤去後に同じ管理番号を新しい端末へ割り当てていた。契約上は問題ない。ただし古い設定を引き継いだままでは、検知結果の解釈を誤る可能性がある。久世は顧客の管理者に連絡し、識別子と設置場所を一つずつ照合した。すぐに削除してはいけない。現場で機械が動いていることを確かめる必要がある。
訓練用の一覧を見ていた良助が「名前は同じでも、中身が違うんですね」と言った。久世は「人間もそうだろう」と答え、思わず自分で笑った。青年はその言葉を気に入ったように、手元のノートへ書いた。久世は安易に例えるなと言いかけたが、現場の複雑さを伝えるなら悪くない。
午後、顧客側の設備担当が新旧の写真を送ってきた。長年、配線図を一人で管理していた年配の作業員が、交代前に残してくれたものだった。久世は写真と通信情報を突き合わせ、安全を確認してから設定を更新した。新しい端末の警告は正しい名前で表示されるようになった。
請求できる作業ではない。それでも顧客は安心し、久世は自分の手順書に「番号だけで同一視しない」と一行追加した。社内の若い広瀬がその文章を読んでうなずいている。知っている人しか扱えない設備から、読めば引き継げる設備へ。今日動いたのは、たった一台だった。




