先輩の空席
広瀬は来週、家族の都合で半日休む予定だった。梶原の研修期間と重なるため、自分が抜けると進みが遅くなるのではと心配した。飯塚は初めから休みを織り込んでいたと伝え、野江が担当する演習と自習の時間を組んでいることを示した。
梶原は申し訳なさそうに「僕のために予定を変えてもらって」と言った。広瀬は首を振った。「私が休むのは私の用事。あなたの責任じゃないよ」。梶原は返事を探したが、結局うなずくしかなかった。
広瀬の半日休暇は、母親の手続きに付き添うためだった。大きな病気ではないが、平日でなければできない用事がある。休みの理由を会社中へ説明する必要はないと飯塚は言った。広瀬は最初戸惑ったものの、詳しく話さなくても予定表が動くのはありがたかった。梶原も「自分が教わるせいで」と言わなくなり、予定された自習を落ち着いて進めた。夕方の引き継ぎ簿には、未完了の演習が一つだけ残っていた。
野江は休暇中の広瀬が担当するはずだった演習を引き受ける前に、自分の当番予定を確認した。教える仕事のために別の業務が滞れば意味がない。飯塚と調整した結果、短い自習時間を挟む形へ変わった。
広瀬は休暇の前日、必要な連絡先だけを共有した。自分の私的な用事まで伝える必要はない。野江もそれ以上尋ねず、演習に必要な資料が揃っていることだけ確認した。
当日、広瀬は家族と役所へ出掛けた。事務所では野江が時間どおり演習を始め、梶原は不明点を二つ記録した。研修が大きく遅れることはなかった。翌日広瀬が戻ると、二人は演習内容を短く共有した。誰かが休むと人が育たない会社であってはならないと、飯塚は改めて感じた。




