増えたのは仕事だけ
田倉は十二人目の給与を計算表へ追加した。雇用契約、保険、貸与品、教育に使う時間。新しい社員が来ても、すぐ売上が増えるわけではない。むしろ今月は支出が先に増える。田倉はその現実を数字にして銀利へ示した。
銀利は採用の判断を後悔していなかった。ただし黒字が続くと思い込むつもりもない。人員に余裕を作るための増員が、現場の無理を増やしては意味がない。飯塚は広瀬と野江の研修時間を正式に勤務予定へ入れ、通常の当番を調整した。
田倉が用意した採用費の表には、研修担当の時間だけでなく、制服のない職場でも必要な貸与品の費用が入っていた。小さな会社では一人の入社が目立つ。だからといって本人に負担を意識させすぎるべきでもない。銀利は採用を決めた理由を全員へ説明し、「梶原さんに急いで元を取らせるような扱いはしない」と伝えた。飯塚はその言葉を聞き、研修終了の判断を実績で行うため、確認項目を絞り直した。
飯塚は社員が増えたから当番回数をすぐ減らせると思われないよう、次の勤務表に研修期間を明記した。現在の熟練者が教える時間を取れば、別の業務を調整する必要がある。銀利はそれを正式な仕事と認めた。
昼休み、田倉は社員の机を数え直した。椅子が一つ増えただけなのに、全員の名前が少し違って並んで見える。会社の数字を扱う人間として、その一人分の生活を忘れたくなかった。
梶原は研修を終えた帰り道、靴屋の店先で足を止めた。新しい仕事に合う靴を探すつもりだったが、今履いているものでも十分だ。給料日まで無理に買う必要はない。駅のホームで時刻表を見ると、帰宅後に食事を作れる時間が残っていた。




