十二人目の朝
梶原聡が初出勤した朝、トラッバの事務所には十二脚の椅子があった。新しい机は購入せず、使っていない会議用の小机を運んだ。田倉は貸与端末の受領書を準備し、情報管理に関する説明を先に行った。人が増えたからといって、いきなり顧客の環境へ触れさせるわけではない。
飯塚は梶原に、初週の予定を見せた。社内の連絡先を覚えること、模擬の警告を見て判断の順番を知ること、疑問を記録すること。実際の運用へ加わるのは段階的に決める。梶原は「思ったよりゆっくりですね」と言い、飯塚は「早く任せて困るのは皆だから」と答えた。
梶原の机には、研修用の資料と小さな引き出しが用意されていた。以前の職場では初日から機器の不具合を任されたため、今回は拍子抜けした。だが机の引き出しに誰のものでもない名札があるわけではなく、貸与品の扱いも一つずつ説明される。田倉は「急がせない代わりに、分からないことは言ってください」と伝えた。梶原は頷き、受領書へ署名した。窓の外では隣の店が開店の準備をしていた。会社が十二人になる日の朝も、町はいつもどおりだった。
良助は予備の筆記具を渡した。「僕も最初は、どこに紙があるか分かりませんでした」。梶原は笑って礼を言った。年下の先輩が無理に教えようとせず、分かることだけ話すのが心地よかった。
昼、尾高が全員の昼食注文を確かめると、今までより一つ多い名前が並んだ。誰かが勝手に歓迎会を企画することもなかった。午後にはいつもの顧客から問い合わせが届き、運用室の電話が鳴った。会社は十二人になったが、仕事は昨日からの続きだった。




