決めた理由
梶原はトラッバへ電話し、入社したいと伝えた。夜間の業務がゼロではないことも、会社が小さいことも理解している。それでも疑問を口にしたとき、実際の資料で説明してくれたことを重く見た。田倉は電話口で礼を言い、正式な手続きについて確認した。
銀利は採用の意思を受け、入社日を本人と調整した。試用期間の扱い、研修中の業務、給与、休暇。決めていなかった条件を都合よく後から増やすことはしない。飯塚は研修を担当する社員の予定を再確認し、無理がないことを確かめた。
田倉は内定を承諾する電話を切ったあと、社長室へ行く前に深呼吸した。採用が決まると書類だけでなく、教育する人の予定も、今後の給与も動く。彼女は梶原の入社予定日を確認してから、関係者へ必要な範囲だけ伝えた。本人がまだ前職の手続きを終えていない段階で、社外へ名前を出すことはしない。銀利は「新しく入る人が安心して質問できる会社でいたい」と言い、飯塚へ研修内容の確認を頼んだ。
良助は椅子の数を数えて「十二人になるんですね」と微笑んだ。田倉は「そうね。でも最初から一人分の仕事を任せるわけじゃないのよ」と教えた。青年は以前の自分が受けた研修を思い出し、分かりにくかった言葉の一覧を提出した。
梶原は入社日が決まった夜、翌月の生活費を計算した。会社に入ればすぐに何もかも変わるわけではない。通勤時間や食事の準備も含め、無理なく続けられる日々を整え始めた。
設備保守会社へ辞退の連絡を入れると、先方は残念がりながらも新しい仕事を応援してくれた。梶原はその返事を読み、少し胸が痛んだ。どちらかが悪いから選ばなかったわけではない。自分の人生の大切な分かれ道を、初めて落ち着いて選べた気がした。




