間違いを知らせる人
模擬訓練の記録を日下部が整理すると、最初の通報から対応判断までの時間が短くなっていた。ただし練習だから早く動けた部分もある。結果だけで本番の対応力を測らないよう、分からなかった点と遅れた理由を別にまとめた。
飯塚は次の演習で、報告の相手が休みの場合を試すことにした。いつも同じ人が助けてくれるとは限らない。連絡先を複数用意しても、実際に応答できるか確かめなければならない。尾高は窓口の手順を更新し、当番の負担を増やさない時刻を選んだ。
日下部は訓練の記録へ、成功した判断の根拠も残した。失敗だけを集めると、次に何を続けるべきか分からなくなる。小田切は振り返りの会議で、ためらわず電話した広瀬の行動を評価した。尾高は必要な情報を聞き直し、その場で分からないことを認めた。人が落ち着いて通報できるなら、事故の被害を抑える可能性も高まる。誰かを褒めるための点数ではなく、仕事の形を確かめるための記録になった。
良助は訓練票へ「報告した人」という欄を作った。「間違えた人って書くより、電話した人って分かるほうがいいかなと思って」。日下部は表現を変えることにした。通報した行為を、責められる記録にしたくなかった。
尾高は新しい窓口案を机の横へ貼り、翌週の実務で使いにくい点がないか確かめることにした。紙に書いただけで習慣が変わるわけではない。それでも直す場所が見えた。
週末、小田切は日用品を買いに商店街へ出掛けた。店ではレジの新人が金額を打ち直して謝っていた。年配の店員が「知らせてくれたから直せるよ」と返すのが聞こえ、小田切は自社の訓練を思い出した。誤りは起こる。隠されない環境を作る仕事は、まだ続いている。




