訓練で鳴った電話
社内の演習中、広瀬が模擬の不審メールを開いたと想定して、尾高へ電話した。演習だと分かっているはずなのに、尾高はいつもの顧客窓口の口調で相手を問い詰めそうになった。日下部が一度止め、連絡した人を責めないことからやり直した。
本番で誰かが誤ってリンクを開いたら、報告を遅らせないことが重要になる。銀利は模擬の出来事を使い、責任追及より先に必要な情報を確かめる練習を命じた。飯塚は問いかけの順番を変え、広瀬が戸惑った点を記録した。
広瀬は演習が終わってから、わざと間違えた役を演じた自分も緊張していたことを打ち明けた。尾高は「責めているつもりじゃなかった」と謝った。銀利は謝罪だけで終わらせず、質問の言葉が強くなる状況を洗い出した。短い電話で事実を聞き出す難しさは、研修資料では十分に伝わらない。参加者は自分の言葉を録音から聞き直し、技術的には正しい質問でも受け手を萎縮させる言い方があると気づいた。
尾高は演習後、自分の声を録音で聞いた。早口で、相手の説明が終わる前に次の質問を始めている。現場で急ぐ理由は分かっているが、助けを求めた人には伝わらない。次の訓練では、まず相手の話を最後まで聞くことを目標にした。
広瀬は電話を切ったあと、通報の理由を簡単に記録した。自分が最初に何を見て不安になったか思い出す作業は、訓練中でも難しかった。だからこそ質問の順番を整える意味があった。
演習を終えると、小田切がわざと答えの分からない質問を投げた。尾高は「確認してから折り返します」と言えた。小田切はうなずき、記録係の広瀬も笑った。声を荒らげずに必要なことを聞く練習は、技術の訓練と同じくらい汗をかいた。




