保留の理由
診療所からの返事は、研修を一か月見送るというものだった。院内のシステム更新と重なり、職員の時間が取れない。真壁は落胆したが、延期の理由を確認し、再連絡の時期を相手と決めた。予定を無理に早めても、学ぶ人の余裕がなければ意味がない。
銀利は見込み表から今月の売上を外した。契約はまだ成立していない。田倉は数字を直し、教育資料の準備に使った工数も記録した。作り直した資料がほかの仕事にも使えるかは、内容と権利を確認してから判断する。
真壁は今月の営業予定表から診療所の案件を外すとき、迷わず「保留」と記した。失注でも成約でもない案件を、都合よく見込みへ残せば田倉が困る。銀利はその整理を見て何も言わなかった。数字へ反映する行為そのものが、営業担当の大切な判断だからだ。翌日は別の町にある部品会社を訪問する予定がある。真壁は車の点検日を確認し、終業前に明日の資料を鞄へ入れた。急な予定変更にも、普段の暮らしの段取りが必要だった。
川根はトラッバへ送った延期の連絡が、断る意味に受け取られないか少し心配した。真壁の返信には再連絡時期が明記されており、責める言葉はなかった。川根はシステム更新が終わってから、改めて研修日程を考えようと決めた。
真壁は返信後、商談履歴に相手の事情を書いた。次に連絡するとき、また一から同じ説明を求めないためだ。必要以上の院内情報は書かず、研修の検討時期だけを残した。
院内では川根が職員の勤務表を書き直していた。来月の研修より、今日休む看護師の代わりを確保することが先だった。夕方、真壁へ丁寧な礼のメールが届く。真壁は急かす言葉を入れずに返した。売上にならなかった時間も、信用を失わない選択に使われた。




