もう一枚の比較表
梶原聡から、選考を続けたいとの返事が届いた。ただし他社の選考も進んでいるという。田倉は急がせず、次の面談日と正式な条件提示の予定だけを連絡した。採用が決まるまで、勤務開始日を顧客へ約束することもしなかった。
銀利は飯塚と研修受け入れの工数を見積もり直した。小幅な黒字が一度出ただけで、人件費を増やす判断は難しい。それでも受け入れるなら、いつまでも曖昧な立場で待たせられない。銀行の資金枠と採用費用を混同しないよう、田倉と支払の見通しも確かめた。
銀利は採用面談の準備として、社内の誰にどの業務を任せるかを改めて話し合った。梶原へ期待するのは突然の難事件を解く能力ではなく、必要な手順を守り、少しずつ判断できる範囲を増やしていくことだ。飯塚は評価する人と教える人が同じになる場合の負担を考え、面談の相手も複数にした。田倉は採用通知を準備しながら、本人の返答期限を守れるよう社内の決裁日を先に確かめた。
良助は会議室の机を運ぶ手伝いをし、「椅子が増えても、みんなの仕事はすぐ減らないんですね」と言った。飯塚は「最初は教える仕事が増えるからな」と答えた。青年はうなずき、自分が入社した頃の手順書を持ってきた。最初に困った用語へ印を付けていた。
田倉は面談資料を机へ戻し、採用を決める会議の予定を確認した。候補者へ示した期限を守るには、社内の仕事も先に終わらせなければならない。誰かを待つ時間にも、責任が伴うのだと感じた。
面談前日の夜、梶原は比較表を開いた。夜勤の少なさではもう一社が勝り、学べる範囲ではトラッバが気になった。どちらもいい面と不安がある。彼は決め手の欄を空白のままにし、当日質問したいことを三つだけ書き出した。小さな会社の採用は、採る側だけで決められるものではなかった。




