直さない勇気
現状確認の結果を受け取った戸沢は、共有アカウントをすぐ消せば済むと思っていた。ところが週末に使う古い受注ソフトが、そのアカウントにひもづいている可能性があった。印刷機の作業予定を確認すると、金曜日には大口の納品が控えている。不用意な変更は業務を止めかねない。
日下部は危険を軽く見せなかった。同時に、今すぐ消すと安全だとも言い切れない。戸沢へ代替手段と確認事項を示し、外部ソフトの提供会社へ問い合わせるよう勧めた。判断できない範囲は、トラッバだけで結論を出すべきではない。
戸沢は一度、切り替え作業を夜中に頼めばよいかと考えた。しかしソフト会社の担当者にも勤務時間があり、急いだ結果確認が足りなくなれば困るのは印刷所だ。妻と相談して納品の少ない日を調べ、無理のない候補日を伝えた。トラッバでは真壁がその予定を見て、担当者の研修日と重なっていないか確認した。複数の会社が同じ表へ名前を載せるだけで、作業に必要な人がずっと分かりやすくなった。
真壁は電話の後、良助へ「手伝いたくても、今日直せないことがあるの」と言った。良助は「印刷が止まったら、明日の人も困りますもんね」と返した。彼はすぐに正解を示すのではなく、作業日程にある納期の欄を眺めていた。
妻は作業日程を冷蔵庫にも貼った。家族の用事と店の納期が重なる日がある。戸沢はその紙を見て、会社を動かす時間と家で過ごす時間を同じ人が担っていることを改めて思った。
翌週、ソフト提供会社から回答が届き、段階的に切り替えられる見通しが立った。戸沢は正式に作業を依頼するか家族と相談する。商談はまだ途中だが、悪い状態を知りながら何も決められないわけではなくなった。印刷所の壁には、納品日と機器点検日が別の色で書き込まれた。




