印刷所の朝
戸沢印刷の作業場は朝から機械の音で満ちていた。紙を積む職人と、受注を受ける戸沢の妻が短い言葉で仕事をつないでいる。日下部は訪問前に範囲を確認し、許可された端末だけを調べた。データの内容をむやみに開かず、設定と更新状況を確認することが今回の契約だ。
最初に分かったのは、使われなくなった共有アカウントが残っていることだった。誰かが悪いと決める材料はない。繁忙期に外部の手伝いを呼んだとき、作業を急ぐため作ったものだという。日下部は利用の有無を聞き、無効化する前に関連する業務がないか確かめる必要を説明した。
診断の間、戸沢の妻は受注端末を使う必要があった。日下部は作業を急がせるのではなく、使い終わる時間を聞いて別の確認へ移った。机には包装紙の見本と学校の行事予定表が重ねて置かれていた。小規模な会社の情報環境は、家族の暮らしと仕事が近い場所にある。写真を撮る前に周囲を確かめるだけでも、写してはいけないものが多い。日下部は戸沢の許可を得て必要な画面だけ記録し、その保存先と削除予定も説明した。
日下部は訪問前に、許可された端末と作業時間を紙に書いた。現場で別の気になる場所を見つけても、その場で全部調べるわけではない。戸沢は紙を受け取って家族へ見せ、「ここまでやる日だって」と説明した。妻は納得し、受注作業に必要な端末の利用時刻だけ伝えた。
戸沢は提案書を読んで「今日は直して帰ってくれるわけじゃないんですね」と少し落胆した。日下部は確認と変更作業が別であることを、もう一度説明した。戸沢は納得するまで質問し、後日必要な変更を自分たちで行うか相談すると決めた。その日の午後も印刷機は動き、納期のある紙束が次々と積まれていた。




