相談の境界
印刷所の経営者、戸沢から電話があった。従業員は家族を含めて五人。請求書のやり取りと印刷データの受信に同じパソコンを使っているという。戸沢は「全部安全にしてほしい」と頼んだが、会社の予算は限られていた。真壁は即答せず、現状確認の範囲を説明した。
銀利は小規模事業者向けの有償診断を試験提供する条件を決めた。対象は一社ずつ、作業時間の上限も明確にする。重大な不具合が見つかっても勝手に設定を変えず、相手の判断と追加の合意を待つ。契約書の文言は日下部と顧問の確認を受けた。
戸沢は家族に、見積書の費用をどう説明するか悩んだ。利益が薄い印刷の仕事で、目に見えない問題へお金を掛けるのは勇気がいる。妻は過去に届いた不審な請求メールを思い出し、「何を知らないかが分かるだけでも違う」と言った。二人は現状確認だけなら負担できると判断し、作業の日に印刷所の機械を動かしてよいかも先に問い合わせた。真壁はその質問に答えるため、契約に含まれない設備操作が発生しないことを明記した。
良助は電話の受付記録に「会社の端末」と「ご家族の端末」を別々に記した。「誰のものか分からないと、触っていいか分からないので」。尾高はその分け方を褒め、私物を扱う際の確認方法も案内へ加えた。知りたい情報があるからといって、何でも集めていいわけではない。
戸沢は見積書を持ち帰り、家族と相談した。翌日、まず有償の現状確認だけ頼みたいという返事が来た。真壁は契約書と準備事項を送った。小さな案件だから簡単なのではない。小さな会社ほど、失敗したときに代わってくれる人が少ないのだと、真壁は考えた。




