断られた改善案
久世匠は運用基盤の監視画面を刷新する提案を持ってきた。古い機能をまとめ、同じ確認を何度もしないようにする。実現すれば負担は減るが、導入作業中の検証と障害対応を考えると、今の人数では余裕がない。飯塚は魅力を認めながらも難色を示した。
銀利は技術的な利点を理解していた。だからこそ簡単に許可しなかった。「改善のために監視が疎かになれば、本末転倒だ」。久世は悔しかったが、現在の運用を守る責任も知っている。提案書を持ち帰り、まず旧機能の利用状況を調べることにした。
設備を新しくしたがる久世にも、理由があった。昔の画面を知っている社員ほど必要な情報へすぐ辿り着けるが、新人は複数の場所を行き来しなければならない。その差が人によって仕事の速度を変えていた。久世は旧画面の利用頻度を調べながら、機能の数より見つけやすさを優先するべきだと考え始めた。飯塚は机の端にある試験端末を一週間だけ貸し、顧客の情報を入れずに操作性を確かめる時間を確保した。
久世は週末、修理屋で古い工具を見ていた。買い替えれば使いやすくなるものもあるが、手に馴染んだ道具のほうが速く使える場合もある。職場の画面を一新する話と同じで、古いことそれ自体が問題ではない。今の担当者にも、新しく入る人にも使えるかが大切だった。
一週間後、久世の提案は大規模な切り替えから、数か所の表示改善へ変わった。派手さはないが、試験と元へ戻す手順を設けられる。飯塚は試行を承認し、銀利は予算を小さく確保した。却下された案が無駄だったわけではない。会社には、引き返す判断ができる人も必要だった。




