教える人の休日
飯塚航は来月の研修予定表を開き、広瀬の名前が休日にも入っているのを見つけた。広瀬は自分から「その日なら教えられます」と言ったのだろう。だが休暇に入った人の善意を当然の労働力として計算するわけにはいかない。飯塚は予定を消す前に本人と話した。
広瀬は一瞬残念そうな顔をした。新人が入るなら、自分も役に立ちたい。それに夜の監視について教えられるのは限られた人間だ。飯塚はその気持ちを否定せず、勤務時間内の研修を小さく区切り直した。初日に全部教える必要はなく、判断権限も徐々に渡せばいい。
研修表の余白へ、広瀬は教え終えたことではなく「まだ本人に任せないこと」を書いた。設定変更と顧客への正式報告は、経験の浅い社員が一人で判断してはいけない。小田切が確認すると、試験問題には正しい手順だけでなく、止まって尋ねる場面も必要だと分かった。広瀬は休暇の前日に演習用の端末を確認して、電源を切った。休む日のために夜遅くまで準備したら本末転倒だと、飯塚から言われたばかりだった。
野江は研修の担当表を見て、夜間監視の経験談を教える時間が足りないと感じた。ただし遅い時間に新人を呼ぶ必要はない。訓練用の過去事例を使い、日中でも判断の順番を練習できるようにする。小田切も目を通し、現実には分からない情報が残ることを演習の条件へ加えた。
土曜日、広瀬は妹と映画館へ行った。上映中も携帯を気にする癖は残っていたが、終映後の連絡欄に仕事の通知はなかった。翌週、飯塚の机には細かく区切られた新しい研修表が置かれた。休日の空白を埋めるより、そこを守ったまま仕事を続ける工夫が書かれていた。




