応募者のもう一つの予定
梶原聡は机の上に二社の面接日程を並べていた。トラッバセキュリティからは追加の面談案内が来ている。もう一社は設備保守の仕事で、夜間の呼び出しがほとんどないという。体調を崩して前職を辞めた彼にとって、給与の差よりも眠れる時間のほうが重かった。
田倉は電話で面談の目的を説明した。前回より詳しい業務見学と、当番の働き方についての質問時間を設ける予定だという。「うちだけを待つ必要はありません」と付け加えた。梶原はその言葉に驚いたが、相手の会社も採用を急ぎすぎない事情を抱えているのだと思った。
梶原は一年前の通勤定期を引き出しから取り出した。夜勤明けの駅で眠り込んだことがあり、それ以来あの路線が苦手だった。トラッバの最寄り駅は乗り換えを一つ減らせる一方、仕事そのものには夜間対応がある。生活のしやすさと、働き方の安心は同じではない。母親は「有名な会社かどうかより、帰ってきた顔を見れば分かる」と言った。梶原はその言葉を信じ切ることもできず、面談で聞く質問をもう一つ増やした。
当日、飯塚は実際の当番表から個人名を伏せた見本を見せた。待機と出勤の扱いは就業規則と労務顧問の確認結果に沿って説明する。良助は廊下で会議室の冷房を少し弱めた。梶原の手がかすかに震えていたからだ。彼に選択を迫る言葉は掛けなかった。
帰り道、梶原は以前の同僚に連絡した。「小さい会社だけど、分からないことを分からないと言ってくれた」。友人はそれを長所とも短所とも決めなかった。仕事を決めるのは梶原自身だ。彼はもう一社の面談を取り消さず、両方の職場へ足を運ぶことにした。




