更新通知の宛先
医療機器卸の担当者から尾高千佳へ、月次報告の通知先を変えたいと連絡が来た。異動した社員のメールアドレスへ今も報告が送られているらしい。異動先は社内の別部署だが、取引の詳細を見る権限があるかは分からない。尾高は電話一本で変更せず、登録された管理責任者へ確認を依頼した。
相手は急いでいた。「前の担当も同じ会社にいるんです。それでも手続きが要りますか」。尾高は退職者だけが危険なのではなく、業務上必要な人へ限定して送る約束なのだと説明した。押し問答になるかと思ったが、担当者は少し考えてから社内の窓口へ連絡すると答えた。
確認を待つ間、担当者は報告書の旧版が社内でどう共有されてきたか調べた。人事異動を機に、別の部署へ転送する習慣もあったという。尾高は過去の扱いを批判せず、現在の規程に沿って整理してもらうようお願いした。尾高の机には自分の携帯の機種変更案内も届いていた。私生活では簡単に変えられる連絡先も、企業間では一つずつ確認がいる。彼女は休日の予定を思い出しながら、返答を待つ案件の次回連絡日を手帳へ書いた。
良助は送信一覧を整理しながら「宛先を消したら、その人が前に見た資料も消えますか」と尋ねた。尾高は首を振った。配信の停止と、すでに保存された資料の取り扱いは別だ。日下部が保管方針と顧客側の手続きを確認し、必要な案内を作った。
夕方、正式な申請が届いた。今後の報告先には現任の二人が登録され、旧担当の配信は停止された。過去の資料の扱いは顧客が決めることになった。尾高は処理完了の返信に、変更日時と確認者を記した。書類の宛先一行にも、会社同士の責任が重なっている。そのことを新人へ教えられた日は、電話が多くても少し手応えがあった。




