新人になれる人
トラッバセキュリティの求人を見た二十六歳の男性、梶原聡は、前職の夜勤で体調を崩した経験があった。技術には興味があるが、同じ働き方へ戻るのが怖い。求人票に夜間当番の条件が詳しく書かれている会社は珍しく、彼は応募前に一度電話で確かめることにした。
電話を受けた田倉は、勤務時間と待機時の扱いについて、今決まっている範囲だけ説明した。制度の確認が必要な点は労務顧問へ照会中であると伝える。梶原は「分からないと正直に言われたのは初めてです」と笑った。田倉は少し複雑な気持ちになったが、曖昧な答えよりはよいと思った。
面接では銀利が業務経験を尋ねた。梶原は高度な分析をしたことはないが、端末の設定や問い合わせ対応は経験しているという。銀利は難しい問題を出さず、判断に迷った時にどうするかを聞いた。梶原は「まず手順を確認して、範囲を超えたら引き継ぎます」と答えた。
良助は面接中、会議室の外で予備の筆記具を揃えていた。面接が終わると梶原が「思ったより普通の会社ですね」と言った。「僕もそう思います」。良助が答えると、梶原は少し笑った。面接した相手が社長だと聞き、あの落ち着いた人が現場にも詳しいことに驚いたらしい。 梶原は前職で夜間の呼び出しが増えた時期のことを、質問の形にして紙へまとめていた。相手が嫌がるかもしれないと思ったが、自分の暮らしを守るためには必要な確認だった。
銀利は梶原の経歴を高く評価したが、採否はその場で決めなかった。現場との相性、給与条件、教育担当の予定を確かめる必要がある。梶原もほかの会社を検討している。二つの生活の予定が、まだ別々のカレンダーに置かれていた。




