席の数を増やす前
採用が一度見送られたあと、飯塚航は業務の手順を整理する時間を確保した。新しい人が入る前に、いま働いている十一人のうち誰かが休んでも仕事が止まらない状態を作りたい。だが簡単な引き継ぎ表だけでは、判断が必要な場面まで伝えられない。飯塚は実際の勤務を見ながら、手順書と相談先を一緒に整えた。
広瀬は自分が任されている顧客の仕事を、同僚へ説明してみた。言葉にすると、無意識に行っていた確認がいくつも出てきた。小田切は「そこを省くと、夜の人は迷う」と指摘した。飯塚は作業時間が増えすぎないよう、確認の目的を一行ずつ書かせた。手順を厚くすれば安心というわけでもない。
良助は新しい研修用の机を拭きながら、「まだ誰も来てないのに、もう準備するんですね」と言った。田倉は「来てからだと、教える人が慌てるから」と答えた。青年は祖母の通院の予定を前日までに揃えていた頃を思い出し、机の脚がぐらつかないか確かめた。
銀利は採用募集を再開する日を決める前に、教育に使える時間をもう一度計算した。運用の負担は少し減っているが、今の社員が無理をする前提にはしない。募集要項には夜間対応の条件と研修期間を明記する。以前より厳しい書き方になっても、入ってからの失望は減らしたかった。 予定を空けるため、飯塚は顧客報告書の共通部分を整理し、二度同じ確認をしないよう日下部と相談した。削ってよい箇所と、必ず残す箇所の区別が肝心だった。
夕方、広瀬は完成した最初の研修表を見て小さく息をついた。表ができたからといって、すぐに誰かを教えられるわけではない。けれど明日別の人が机に座った時、どこから始めればよいかを説明できる。そのことが嬉しかった。




